簡易課税 (税抜経理)
売上 5,000 万円以下で届出書を事前に提出している事業者は簡易課税制度の適用を受けることができます。
課税事業者が納付する消費税額は原則として以下の式で求められます。
納付する消費税額 = 課税売上に係る消費税額 − 課税仕入等に係る消費税額 (仕入控除税額)
ここでいう仕入とは勘定科目の 「仕入」 だけでなく 「消耗品費」 等、 費用全般が含まれます。つまり、 仕入や経費で支払った消費税分を差し引くことができるということです。でも、 経費 (費用) の仕訳は件数が多いですから支払った消費税の合計額を計算するのは大変ですよね。
そこで簡易課税制度です。
簡易課税制度では、 支払った消費税額を積み上げるのではなく、 売上時の消費税額に 「みなし仕入率」 を掛けて仕入控除税額 (支払った消費税額) としていいよ、 という制度です。
ですが、 簡易課税は税抜経理とあまり相性がよくありません。私のおすすめは税込経理なのですが、 なんらかの理由で税抜経理を選択したいという簡易課税事業者もいると思います。たとえば、 課税取引 ・ 不課税取引が混在していたり、 標準税率 ・ 軽減税率の売上が混在していたりと、 総売上から消費税額を計算するのが難しいような場合は簡易課税事業者でも税抜経理方式を選択して仮受消費税等を積み上げるほうが簡単になることがあります。
税抜経理
税抜経理では、 消費税を区別するための勘定科目 (仮払消費税等 ・ 仮受消費税等) を使って仕訳をします。
ぬいぐるみを本体価格 5,000 円 + 消費税 500 円で販売した場合の仕訳は以下のようになります。売上は 5,000 円となり、 受け取った消費税 500 円には 「仮受消費税等」 の勘定科目を使います。
7 月 21 日 ぬいぐるみ販売 | |||
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現金 5,500 | 売上 5,000 | ||
仮受消費税等 500 |
ハサミを本体価格 3,000 円 + 消費税 300 円で購入した場合の仕訳は以下のようになります。本体価格 3,000 円が消耗品費 (経費) になります。支払った消費税 300 円には 「仮払消費税等」 の勘定科目を使います。
6 月 15 日 ハサミ | |||
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消耗品費 3,000 | 現金 3,300 | ||
仮払消費税等 300 |
消費税額を計算する
税抜経理では仕入時に仮払消費税等の勘定科目を使って仕訳をおこないますが、 この仮払消費税等の合計金額が仕入控除税額になることはありません。 簡易課税制度を適用している事業者の仕入控除税額は、 あくまでも課税売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けて算出します。
つまり、 簡易課税事業者は仮払消費税額を積み上げても無駄になってしまいます。仮払消費税額が仮受消費税額を超えたとしても消費税の還付を受けることはできません。それどころか、 仮払消費税額の積み上げた金額と簡易課税で算出した仕入控除税額の差額は収益として計上しなければなりません。
1 年間の課税売上 12,000,000 円、 仮受消費税等 1,200,000 円、 仕入等の費用が 4,000,000 円、 仮払消費税等 400,000 円になったとします。また、 簡易課税のみなし仕入率は 70%であったとします。
- 事業区分ごとのみなし仕入率については下記サイトをご確認ください。
期末には 「仮受消費税等」 の合計に、 みなし仕入率を掛けて仕入控除税額とします。「仮払消費税等」 に依らず仕入控除税額が決まることに注意してください。
仕入控除税額 = 「仮受消費税等」 の合計 × みなし仕入率
仕入控除税額 = 1,200,000 × 0.7 = 840,000
仕入控除税額は 840,000 円になります。「仮受消費税等」 の合計からこの仕入控除税額を引いた額が 「未払消費税等」 となります。
未払消費税等 = 「仮受消費税等」 の合計 - 仕入控除税額
未払消費税等 = 1,200,000 - 840,000 = 360,000
納付する消費税 (未払消費税等) は 360,000 円となりました。本則課税の場合は 1,200,000 - 400,000 = 800,000 円になりますから、 簡易課税で 440,000 円も抑えられたことになります。
仕訳は以下のようになります。
12 月 31 日 消費税納付額 | |||
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仮受消費税等 1,200,000 | 仮払消費税等 400,000 | ||
未払消費税等 360,000 | |||
雑収入 440,000 |
雑収入 440,000 円に注目してください。「仮受消費税等」 ・ 「仮払消費税等」 ・ 「未払消費税等」 だけでは借方 1,200,000/貸方 760,000 となり貸借が合いません。簡易課税で算出した仕入控除税額 (840,000 円) と積み上げた仮払消費税等 (400,000 円) の差額 440,000 円を雑収入として貸借を合わせなければなりません。(雑収入は収益勘定ですから所得税 ・ 住民税が増えることになりますが、 これでも本則課税よりは有利で益税を得ていることになります。)
- 仮払消費税等が大きいときは借方に 「雑費」
- 仮受消費税等 < 仮払消費税等 + 未払消費税等 となる場合には、 借方に 「雑費」 を入れて貸借を合わせてください。簡易課税で計算した仕入控除税額よりも仮払消費税等が大きい場合に、 このような結果になります。この状況は簡易課税よりも本則課税のほうが有利だったことを意味しています。仮払消費税等が大きい場合は本則課税への切り替えも検討してみてください。
納付する消費税の仕訳方法
翌年、 消費税を納付した際に 「未払消費税等」 を消し込みます。
3 月 31 日 消費税納付 | |||
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未払消費税等 360,000 | 普通預金 360,000 |
端数処理
納付する消費税額 ・ 地方消費税額は 100 円単位で切り捨てられるため、 算出した 「未払消費税等」 と実際の納付税額に差額が生じることがあります。
この端数を事前に計算して正確な 「未払消費税額」 を算出するのは大変だと思います。期末に、 未払消費税等の仕訳を起こす際には端数は無視して理論値で仕訳をしてしまってもいいでしょう。
端数は実際の納付時に処理しましょう。たとえば、 課税売上が 1,210 万円 ・ 仮受消費税等 121 万円 ・ みなし仕入れ率 70%の場合に未払消費税等を計算すると 363,000 円になります。ですが、 実際に国税庁 HP の確定申告書等作成コーナーに入力して算出してみると納税額は 362,900 円となります。(消費税と地方消費税それぞれ 100 円単位で切り捨てられるためです。)
計上していた未払消費税等と実際の納付額で差額が発生した場合は以下のように、 差額を 「雑収入」 として処理します。
3 月 31 日 消費税納付 | |||
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未払消費税等 363,000 | 普通預金 362,900 | ||
雑収入 100 |
- 端数が出るのが嫌な人は、 期末に未払消費税等の仕訳をする際に、 国税庁 HP の確定申告書等作成コーナーで正確な納付税額を確認するのもよいと思います。
中間納付の場合
中間納付の場合は 「仮払消費税等」 を使って仕訳をします。8 月に消費税額 20 万円を中間納付した場合の仕訳は以下のようになります。
8 月 31 日 消費税中間納付 | |||
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仮払消費税等 200,000 | 普通預金 200,000 |